◎ハンナ さんよりパン屋さんにプラスな情報(vol.129) 「どうだ?間に合いそうか?」 「放課後、美術室で続きをしてもいい?」 「それでもいいさ。」 その日は、制作中の木版画の提出期限でした。 すっかりひとけのない中学の美術室。吸いかけの煙草の灰を、左手のコーヒーカップに落としながら、美術の担任のKさんが、「おまえ楽しそうだな。」 「うん。」 「先生、オレ、もうしばらくこれに手を入れてちゃダメかな?」 「次から『ポスター』始まるんだぞ。」 「キライなんだ。」 「・・・。いいけど、通知票『3』しかやれないぞ。」 「いいよ。」 交渉成立。 その後3年間、提出作品数はカリキュラムの1/3。通知票はずっと『3』。 卒業を迎えて、最後の通知票。美術の欄に『5』がありました。 「こんなことしていいの?」 「ああ、いいんだ。どうせ2学期の分までしか内申書には行かないから、誰も気にしないさ。それに俺、教師辞めるんだ。おまえたち見てたら、また思いっきり絵が描きたくなってな。来月にはヨーロッパに渡る。」 「ふうん。じゃ、もう会えないね。」 「生きてりゃ、また会えるさ。」 長く生きてると、知らないうちに人や世間から押しつけられる、大小さまざまな制約があります。それなのに、そんなことなんて全く気にせず、なんでも好きなように楽しんでしまえる、こんなパン屋の自分が今あるのは、きっとあの人のおかげだと思っています。 --------------------------------------- ベーカリー ハンナhanna@hw.tnc.ne.jp 店主 阿部成人(あべなりひと) http://ameblo.jp/panemon/ 地図URL 駿河こんがり堂本舗 http://www.kongarido.com/ |