パン屋さんにプラスな情報が届きました。

ハンナさんのQ&A
メルマガ124号について瀬戸恵子(3/9)


いつもメルガマありがとうございます。今回のハンナさんからのメールで、仕込みの際ミキサーボウルに先に水を入れると…のメリットがありましたが、材料の飛散防止はもちろん納得しますが、粉の水和が早いために仕込時間が短縮できる方のメリットについての②抱き込む空気による生地の酸化作用で味や風味が損なわれるのを抑えられる。ということがイマイチ理解できません。もちろんパンの種類にも異なるでしょうが…私は製菓学校でふっくらパンを仕込む際、30秒程ひと手間かけて水を入れる前に粉だけミキシングしてあげるとふかふかパンになるから、現場で作業に追われていてもこのひと手間かけて美味しいパンを作ってと先生から習いました。ですから卒業してから今までずっと、ふっくらパンの仕込みの際はあえて意識し、粉を30秒程ミキシングして空気を含ませるよう心がけています。本当にこのひと手間で私が作った同じパンがふかふか美味しいパンになっているのかは比較したことがありません。ただ私はひと手間が美味しいパンになると信じて今も進行中です。…ですから今回のハンナさんのメールで考えさせられました。美味しいパンを提供したいです。

パンは本来、手で仕込まれていました。
その場合、あなたの言うひと手間は、美味しいパンを作る上で欠かすことのできない非常に大切な工夫です。
ミキサーを用いた仕込みに際しても、それが必要最低限のミキシングであればメリットはあります。
しかし現実には、過度のミキシングによって必要以上の空気が生地に抱き込まれているというのが現状のほとんどです。
そこで、現在、日本のパン屋さんで主流になっている仕込み方を考えてみましょう。
ほとんどのパン屋さんで、2速、3速を用いるのがあたりまえになっています。
理由は、
①叩くことによって、小麦粉に含まれる酵素をより活性化させ醗酵を促進する。
②空気をたくさん抱き込ませることによって醗酵を促進する。
③高速ミキシングとイーストフードの併用で、粉の許容範囲ギリギリまで吸水させることができるので、歩留まりが高まり、コストダウンにつながる。
④ドゥコンディショナーを活用するための生地の冷凍耐性、冷凍保存のための生地の冷凍耐性を高めるためには、冷凍用イースト、イーストフードと共に高速ミキシングは欠かせない。
これらはすべて合理化、効率化の工夫であって、決してパンを美味しくするための工夫ではありません。
パン作りの流れの中で、各工程において必要な仕事がなされることを前提に、最低限のミキシングをする。
その次に生地に触れるのはパンチの時。
パンチの目的は?
と聞かれて、あなたはどう答えるでしょうか。
ガス抜き(生地内にたまったアルコールや炭酸ガスを抜く)をして醗酵を促す。すなわち醗酵環境をリフレッシュする事。
正解です。学校でそう教わったはずです。
でも実は、それだけでは不十分だということを知ってほしいのです。
高速ミキシングをした生地に対しては形どおりのパンチで十分でしょうが。
昔ながらの仕込みをした生地はどうパンチされていたか知っていますか?
パンチ時の生地の状態を、五感をフルに働かせて把握する。それに対して、次の作業である分割時までに、あとどれくらい醗酵してほしいのか、あとどれくらいコシを付けたいのかを生地に伝える。そのためにいちいちガスを抜く量を加減し、生地を折り畳む回数を加減する。
分割時の丸め、成型もまたしかり。
パンとのコミュニケーション!
そうやって生地作りをすすめるのです。
言い換えれば、パンの要求をこちらがきちんと満たしてやることができれば、限りなく100点に近いパンを目指せるのです。
それがパン作りのための経験に基づいた技術、感性。仕事の本質です。
しかし、それを身につけるためにはそれなりの時間が必要なのも事実です。もし、それができなければ、20点、30点にしかならない。これはとても大きなリスクです。
そのリスクを避けるために高速ミキシングが普及したのだと、私は考えています。
ミキシングによって生地作りをほぼ済ませてしまえば、パン作りに携わるスタッフの力量に関係なく、コンスタントに70点にできるからです。
私がこの世界に入ってまもなく(20数年前)あたりから、あらゆるメーカー主催の講習会が高速ミキシング一色になりました。
まだまだブームに乗って、あまり経験のない人たちの独立開業がたくさんあった頃のことです。
いくら経験があまりないとはいえ、いい品物が出来ない時、人は自分の力量のせいにはなかなかしないものです。
「この材料は使いづらい。」という顧客の声もあったにちがいない。
無難な製法を勧め、それを取り入れていく。自然な流れだったのでしょう。
あなたが作る、卵や着色料の入らないパン(食パンやフランスパン等)を切って、内相を見て下さい。 仕込みすぎていないパンは、とても優しいクリーム色をしていて、その切り口からは醗酵臭のない格別な香りが感じられるはずです。
それぞれの考え方、価値観によって、ビックリするくらい実に様々なパン作りがあります。 たくさん知って経験して下さい。たくさん食べて下さい。 その中からあなただけのスタイルを確立すればいい。 長々と話しました。つき合ってくれてありがとう。 あなたのパン作りにとってわずかでもヒントになれば幸いです。
またいつでもメールを!

ベーカリー ハンナ
阿部成人(Narihito Abe)
hanna@hw.tnc.ne.jp

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