パン屋さんにプラスな情報が届きました。

◎ハンナ さんよりパン屋さんにプラスな情報(vol.97)

この店を始めて、4ヶ月ほどたった頃のことです。「ここ10年、あちらこちらから高額のオファーと共に高く評価されてきた自分の仕事ならば、日本一立地の悪い場所だろうが、すぐに結果は出せるさ。」 のうてんきで、高慢ちきな天狗をそのまま絵に描いたような男にも、そろそろタカをくくるには限界が近くなっていました。
その日の午後、店の前に横付けしたタクシーから降りてきたのは、『ペンキ屋』を営む母方の叔父夫婦。「おう。電話で声聞いたら、顔見とうなってな。苦労してるみたいやな。」おもむろに叔父がポケットから取り出したのは、前年度の確定申告書のコピー。「うちもな、初めて営業が赤字になった。さぼってる訳やないんやけどな。そういうご時世や。おかげと、若い頃からしゃにむに働いて持った「アパート」の家賃が入るさかい、なんとか食うていけてる。」「・・・。」
「おまえがどんなに頑張ってるかは、よぉ知ってる。おまえの親よりわかってるつもりやで。そんなヤツに、『まだまだや、もっと頑張れ。』とは、ワシは言わん。あとは、おまえが生まれ持った『運』や。きっとな、なんとかなる。心配せんでええ。」それまで、叔父の目をまっすぐに見つめて、話をダマって聞いていた自分の首が、ゆっくり前に折れていく。テーブルの上に、ボタボタ涙が落ちた。
「それでええ。ほな帰るわ。」その直後から、緩やかに店は軌道に乗り始めた。
不思議だった。

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ベーカリー ハンナhanna@hw.tnc.ne.jp
店主 阿部成人(あべなりひと)
http://sundance-dad.cocolog-wbs.com/
オンラインショップ 駿河こんがり堂本舗 http://www.kongarido.com/

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