パン屋さんのフィールドワーク・その1
「魔女の宅急便」キキのパン屋さん
〜オーストラリアのタスマニア州〜

宮崎映画ファンにはよく知られていることのようですが、タスマニア州のロスという町に、キキの下宿先のモデルといわれている「ロス・ビレッジ・ベーカリー」というパン屋さんがあります。
このパン屋さんの建物は、「ナショナル・トラスト」にも登録されていて、歴史的にも興味深いものがあります。
「キキのパン屋さん」、ナショナル・トラスト、ロスの町について、ご紹介します。

1 キキのパン屋さん=Ross Village Bakery
緑あふれる街路樹のもとに、「ロス・ビレッジ・ベーカリー」があります。「村のパン屋さん」という語に、ロスの町がもっと小さかった頃がしのばれます。いまでも町でたった一つのパン屋さんです。向かって左隣の建物は、ナショナル・トラストに登録されている「ロス・ベーカリー・イン」です。この建物は、今から170年以上前の1832年に、街道沿いの駅馬車宿として建てられました。今でも、イン=Inn=宿と名乗っているように、現在はB&Bとして営業しており、宿泊できます。
ロスの町は内陸部にあり、州都ホバートからバスで80分です。州都ホバートは海に面し、かもめが飛び交い、多くの船が停泊しています。海の町のイメージはホバートで楽しんでから、ロスの町へ行ってみましょう。

夢があふれるウィンドウ 中に入るとキキが出迎えてくれました。
(日本人のプレゼントなのか!?)
窓辺にはクッキー この日はだいぶパンが売れてしまっていました。お客さんは町の人だけではなく、遠くからも買いにきます。

街道沿いの駅馬車宿=Coaching Innとして、開業したのは1833年のことです。駅馬車宿に泊まる人々にパンを提供するため、最初からパン焼き窯がすえつけられ、いまもオリジナルのパン焼き窯が使いつづけられているのです。
パン焼き窯の上には、これも日本人のプレゼントなのでしょうか。キキとジジがいました。
ベーカリーとB&Bを経営しているのは、クリスとドットのご夫婦です。クリスがパンを焼きます。
午前中にパンを焼き終わっていたので、この土曜日の午後、焼き窯から出てきたのは、パンならぬ、アメ色においしく焼けたダックでした。ダックを持って、クリスは町のパーティへ出かけていきました。小さな町に生きるパン屋さんの、ほっと息をつく、穏やかな午後のひとときが感じられました。



Innの横には、ガーデンテラスがあり、そこでベーカリー
のメニューから選んで、食事をいただくことができます。


Innのバックヤード(裏庭)に実るリンゴ


お待ちかね、キキの部屋に行くイメージのモデルとなった部分です。
中庭。ちょっと小さいけど。
部屋に行く階段。B&Bの部屋に通じてます。

つみかさねられたマキ。たぶん焼き窯用でしょう。





2 ナショナル・トラストと、ロスの町
「ロス・ベーカリー・イン」の建物は、タスマニア州の「ナショナル・トラスト協会」の「ナショナル・トラスト」として登録されています。
ナショナル・トラストとはどのような活動でしょうか。長く守りつづけたい歴史的建造物や、自然環境があったとします。でも、所有者が変わったり、売買されてしまったりすると、建物が取り壊されたり、自然環境が悪化することが起こる場合があります。そのようなことが起こることを避けるために、有志が集まってお金を出して、土地や建物を保有し、保全をめざす活動をトラスト運動といいます。有志が作った団体をトラスト団体といい、イギリスのナショナル・トラスト協会をはじめ、世界各国にトラスト団体があります。日本にもすぐれた活動をしているトラスト団体が多くあります。オーストラリアもトラスト活動がさかんです。
土地・建物を保有する方法には、トラスト団体が寄付金

を集めて買い取りを進める方法のほか、土地・建物の所有者がトラスト団体に土地・建物そのものを寄付・登録し、自分たちがたとえ死んでも、土地・建物がそのままの状態で保全されることをめざす方法があります。この場合、トラスト団体に登録されますが、土地・建物は使用し続けることができます。キキのパン屋さんも、この例です。
ロスの町は、開拓時代に、タスマニア島を貫く最も古い街道沿いに、作られた集落です。「ロス・ベーカリー・イン」の建物は、1832年に建造され、駅馬車宿として開業された、タスマニアの歴史を反映した貴重な建物です。オリジナルの古いパン焼き窯は、集落の人々や旅人に、食べ物を提供した歴史をもつ、文化的にも価値があるものなのです。そして、170年前に始まった駅馬車宿は、現代においてもたった1軒の「村のパン屋」として、町の人々の生活の中で大事な位置をしめ、ベーカリー、B&Bとして生き続けているのです。
日本の私たちが関心をもつキキのパン屋さんが、オーストラリアの人々の生活の中で、こんなに大事な意味をもち、現役のベーカリーとして活躍し続けていることを知る
のは、なんてすてきなことでしょう。人々の生活の中におけるパン、パン屋さんの役割の奥深さについて、もっと知ってみたくなりますね。
ロスはとても小さな町ですが、このように古い歴史があり、開拓地の集落の原型をうかがうことができます。古い石橋など、歴史的建造物も多く残っています。町のあちこちで、またはローカルなアンティークショップで、掘り出し物を見つけることができるかもしれませんよ。





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