〜 Panaderia vol.19 掲載記事より 〜







*** ブランド小麦のこだわりパン ***
最近パン屋さんで小菱の銘柄を指定したり、単に国産小麦というだけでなく産地を限定しているものも出てきました。
そこで、パナデリアではパンに使われている銘柄小麦について調べてみました。
今回の特集でパナデリアの注目することはふたつ。
ひとつは、国産小麦が安心ということだけでなく、本当に美味しい小麦であるということ、今までのアメリカやカナダなどの外国産小麦とは、粉の状態でなめてみただけでその味の違いは歴然。
もうひとつは、生産者とパン屋と客が同じレベルで菱を考える環境が整ったということ。
普段なにげなく食べているパンの裏側には産者の想い、国の政策から食文化、昧の好みまで様々なものが見え隠れしています。
最近人気のブランド小麦ですが、ここで一度国内の農業を取りまく環境をふまえながら、農作物そして主食としてのバンという観点からちょっと考えてみたいと思います。

◆最近の国産小麦事情
日本のパン用の国産小麦といえば、「ハルユタカ」が代表的ですが、4、5年前からほとんどの生産者が作らなくなってしまいました。現在は、「ホクシン」や「ホロシリ」といった品種が登場し、パン用粉として一般的に使われています。そもそも日本の小麦というのはパンにするにはグルテンの量が少なく、うどん等に適していると言われています。そのため、日本で使われる小麦の90%近くは外国産に頼っているのが現状。当然、本格的にパン用の粉を手がける農家は多くありません。
国産小麦が生産されない原因として、国内の農業を守る政策のもと、自由に小麦を生産流通できない時代が長く続いていたこと。また、関税問題のために外国産の小麦を購入せざるをえないという状況もひとつの要因です。さらに、日本では梅雨があり小麦の生産に適していないという環境の問題もあるのです。

小麦の品種に見られる"春"という文字は春まくという意味からですが、本州では春まき小麦は収穫の時期と雨の多い季節がぶつかることが多く、麦は穂の上で水分にあうとすぐ発芽してしまう収穫調整が難しい作物です。
さらに湿度の高い日本は赤カビが発生する環境でもあり、梅雨のないからっとした気候の北海道は、昔から麦の生産に適しているといわれています。 このようななか、ポストハーベスト(収穫後の虫やカビなどを防ぐ農薬)の問題や、生産者の顔が見える作物への需要が高まったことで、麦にも目がむけられ、徐々に生産を開始する生産者が現れてきました。北海道や東北の一部の地域ではJAなどの後押しでパン用に適した小麦の品種改良が進められています。さらに北海道では十勝、江別で生産者が中心となってブランド小麦の生産を手がけるまでになっています。

*ホクシン(北海道) 北海道の主要品種であり、収量の多い麺用の小麦として作られてきた中力小麦。春まきのハルユタカが10r当たり100kg前後(初冬まきでは600kgいうデータあり)なのに対し、ホクシンは500〜600kgと収量が高く作りやすいため、現在北海道では供給過剰となっている。製パン性は低いが、実はフランス産小麦とタンパク質成分が似ており、表面がパリッとしたパンを焼くのに向いている。そこに目をつけた大手カルフールが十勝産のホクシン100%(十勝ブランド)にこだわった「十勝ブレッド」シリーズを展開している。またバルユタカのようなブランド小麦とブレンドする際に使われることも多い。
*ハルユタカ 昭和60年に優良品種となり普及した準強力小麦。これまで多く作られていたうどん用の中力粉とは違い、よりカナダやアメリカ産に近い製パン性に優れたグルテンの質と量を持つため、おいしくて安全性の高いパンが作れるということで注目を集めた。ハルユタカの"春"は春まきすることから名付けられているが、現在、江別市では生育段階を早めるために初冬まきを導入。出穂期の赤カビ病や、収穫期の穂発芽を避ける試みが行われている。収量が不安定で少ないこともあり、生産農家が少なく非常に手に入りにくいのが現状。通常手に入るのはハルユタカ、ホロシリ、ホクシンの3種を原料とした「はるゆたか」(江別製粉)などのブレンドされた粉。
*ホロシリ 元々は製麺用に展開された秋まき小麦。外国産小麦と比べてきめが細かく小麦自体に甘味があり、製パン性にも優れているため、パン用粉として注目されている。ハルユタカに替わるものとして年々市場を拡大する期待の品種。
*甲斐小麦 元々はハルユタカ。安全性とおいしさを求めるパン屋の有志により、1997年より山梨県・八ヶ岳で完全無農薬、減化学肥料で栽培されている。また、原麦が世代間交配しており、気候や風土、土地の性質が違うことからハルユタカとは異なる品種となっている。
*「十勝ブランド」小麦 十勝管内の麦の生産者で構成する「ファーム十勝」のメンバーが生産するホクシン小麦の名称。2 000年の麦の流通自由化により生産者の指定が可能になったことから、製粉、加工の業者も指定 した、顔の見える製品作りを確立。「ファーム十勝」の会員は、お互いのほ場の訪問や勉強会などの活動を積極的に行い、よりクオリティの高い品質を目指している。
*キタノカオリ(北海257号) ハンガリー産小麦とホロシリを父母にもつ秋まきの強力小麦。よりカナダ産小麦に近い性質をもち、製パン性にもすぐれているため、今後期待される品種。現在はまだテスト段階。
*南部小麦 主に岩手県南部地方で作られている中力粉の品種。元々、うどん用として作られていた麦なので、旨みや粉特有の香りが強い。製パンに向くグルテンの質と量が少ないため、天然酵母を使ってゆっくりとグルテンをつないでいく必要があり、一般に技術力が必要と言われている。
*ニシノカオリ 九州で生産されている小麦で最近注目されている品種。タンパク量が10・5%あり、フランスパンなどにも適している。
*農林61号 主に群馬県を中心に生産されている品種。うどん用粉だが、パン用としても使うことが出来る。県内、都内では直接購入し、挽いて使っているパン屋もある。
*春よ恋 「ハルユタカ」よりも病気に強く、丈夫な品種を求めて交配された品種。「ハルユタカ」を母、良質性と耐病性に優れる「Stoa」を父にもつ。製パン性は「ハルユタカ」より優れるとも言われている。近年、生産が不安定な「ハルユタカ」に替わる北海道産パン用粉として注目を集めていたが、年々収量が減り、今年は十勝産はほとんどとれないというのが現状。

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