連載の題名:甲斐の国から小麦の風 −わたしたちの小麦粉闘記②− 第2回目の題名:授産施設「緑の風」建設へ向けて |
リポーター |
知的障害者施設 緑の風(仮称) 設立準備担当/ 栗原えつこ |
冬の最低気温が関東で最も低い場所の一つ、八ヶ岳の麓、山梨県長坂町で知的障害を持つ人たちとパン用小麦を作り、粉に挽いてパンを作りたいという計画が進行中です。 前号では小麦のことだけを書きましたが、私達が創ろうとしている福祉施設ではもう一つ「花壇用花笛」の栽培も計画しています。 小麦と華笛の生産…つまり農業という仕事をすることを通じて障害を持つ人たちの昼間の暮らしを創っていきたいと考えています。知的障害の人たちの為の援助を「働く」ことを通じて行う福祉施設を「授産施設」といいます(最近はもっとわかりやすくということで「社会就労センター」と呼ぼうという動きもでていますが)。私たちはこの「授産施設」をつくろうとしているます。 働く場所をつくるのであれば「企業でも良いのでは…」という考え方もありますが、私たちが知的障害を持つ人たちの為の働く場所をつくる第一の目的は、知的障害の人たちが単に働いて給料をもらうということだけでなく、暮らすことのできる環境をつくることにあります。 |
授産施設をつくるには、大きく三つのことを考えなければなりません。 まず一つめは、仕事の内容と手順を決めること。 例えば小麦を生産し、製粉し、パンを作る仕事の流れを具体的なものにしていくことです。 二つめは、公的な施設として認められるために、行政によって定められた手続きを順に踏み、施設ができるように努力することです。 そして三つめは、地域の人たち/障害者はもちろん、あらゆる人たち/と対話を重ね、施設が地域の社会資源として活用される方向へ持っていくことです。 これらのことは、一つずつクリアしていくのではなく、全て同時並行で進行していきます。 施設建設に際して最初にして最大のハードルは、施設設計の為の計画書を山梨県に提出し、施設建設の許可を国と山梨県からもらうことです。その時、国や県から求められることは、福祉に携わる理念が豊かであること、施設の運営方針がしっかりしていること、建設計画・資金計画が確かなものであること、地域の住民や町から同意が得られていることなどです。 私たちがこれらの計画で動き出したのが平成13年4月、施設完成予定が平成15年4月なので、今はおよそ半分が過ぎました。公的な施設である授産施設は、建設費の半分以上、運営費のほとんどを公的な補助金で賄われます。ですから、そのために山梨県に対して行う手続きや提出する書類は膨大なものがあり、その事務的な作業にこの1年は追われてきました。 私たちがつくる授産施設「緑の風」を最も特徴づけているのは仕事の内容です。 普通の企業であれば、どんな仕事であるか、つまり何を生産し何を売るかということは最重要項目ですが、福祉施設では(理念、運営方針、建設・資金計画、地域の同意)が重要であり、具体的にどのような仕事をしていくかというのはそれらがあって初めて加味されるスパイスみたいなものです。 私たちに残されている課題はまだまだたくさんあります。 仕事に関することでは、小麦については、小麦栽培、製粉、パンづくりそれぞれの技術と品質管理を確立すること、販売経路を確保すること、そしてこれらの仕事の工程を一つずつ洗い出し、知的障害を持つ人たちが自分の力で作業を行えるように仕事の仕方を考えることです。 施設建設に関することでは、設計の細部をつめ、建設業者を決定し、また、製粉やパンづくりのための機械類などの設備類も具体的に検討し、決定していかなければなりません。 そして、何といっても重要なのが、地域の方々への働きかけです。 地域に住む知的障害を持った人やそのご両親、養護学校や社会福祉協議会などの福祉関係者と話を重ね、知的障害を持った人たちの選択肢の一つになるように働きかけること、そして、地域に住む人たちがハード・ソフト共に地域の資源の一つとして活用できるように交流を図っていくことが必要となります。 |
![]() 山梨県庁 ![]() 山梨県の現地調査と話し合い ![]() 建設予定地(林地部分) ![]() 建設予定付近から見える八ヶ岳 |
小麦に関しては、横浜のパン屋さんの集まりである「ホイートライフクラブ」や㈱櫛澤電機製作所、長坂でパンを通じて生活提言をしているinnoの猪原氏が地元の農家5軒ほどに甲斐小麦の生産を委託して、国内産小麦によるパン作りを模索しており、その活動の中に授産施設「緑の風」を巻き込んでくれることになり、施設づくりに弾みがついています。 まだ建設もはじまらない未知数の「緑の風」ですが、すでに「入りたい」「実習させて」といった声が寄せられています。皆さんの期待の大きさに身が引き締まります。建設まで後1年、一つ一つ課題をクリアし、夢が現実となりつつあります。 |