連載の題名:甲斐の国から小麦の風 −わたしたちの小麦粉闘記⑧− 第8回目の題名:オープン直前、パン工房も準備万端? |
リポーター |
社会福祉法人 緑の風 設立準備担当/ 栗原えつこ |
山梨県長坂町に訪れた冬は、たくさんの雪を運んできました。もともとこのあたりは降雨量の少ない地域ですが、暖冬の年は例年以上に多くの雪が降り、11月初旬に播いた甲斐小麦はすっかり雪に埋もれてしまいました。長坂町のあたりは冬の外気温がマイナス10℃まで下がります。春までに畝の間を耕したり、麦踏みをしたり・・・と考えていましたが、甲斐小麦と一緒に私たちも、春が訪れて雪が融けるのをただじっと待っているだけになりました。 2年前から私たちがオープンに向けて準備している福祉施設「緑の風」はいよいよスタート直前になりました。建物も完成し、パン用の機材、製粉用の石臼も続々と搬入されています。 「緑の風」は八ヶ岳の麓の段々畑の中に建っているので、周囲の通路が狭く、パン用機材の搬入路を確保することができませんでした。何百㌔㌘もあるミキサーも冷蔵庫も、そして1㌧近くもあるオーブンも、すべてクレーンで吊ってパンエ房の中に搬入しました。パンエ房の中で見るとオーブンはかなりの大きさがありますが、クレーンに吊られて屋根を飛び越えている姿を見ると、開けた自然風景の中では本当に小さな存在です。けれども、この小さなオーブンから新しい世界が広がっていくのです。パンの香りがあたり一面に漂ってくる日が楽しみです。 私たち「緑の風」は福祉施設なので、スタッフは利用する知的障害のある方々の支援を専門としています。パンの技術者は一人もいません。福祉施設で誰にも負けないおいしいパンを作ろう、なんて製パンのプロの方からみたら、そんなに簡単なものではないと】喝されるかもしれません。けれども、おいしいパンを作るという仕事、こんなに魅力的な仕事はなかなかありませんよね?パンが好きで、おいしいパンを作りたくて、それをより多くの人に食ぺてもらいたくて・・・と思う気持ちは障害があってもなくても変わりません。そういう気持ちを大事にすることがパン作りの原点ではないかと思うのです。 福祉施設を利用する知的障害のある方たちは、社会で暮らしていく上でそれぞれにいくつかの課題を抱えています。仕事をするには注意が散漫だったり、感情に左右されやすかったり、細かい作業が不器用だったりもします。そんな不得手なことをどうにかして直そうとやきもきするよりも、働いて遊んで寝る、という普通の生活のリズムの中で暮らしていきながら、楽しい仕事をしていく中で色々な経験を積み重ねて、できることの世界を広げていくほうが生きる力が湧いてくると思いませんか? おいしいパン作りの世界をつくるために、「緑の風」はたくさんの方々に協力していただいています。甲斐小麦でつくるパンのレシピが様々な方たちの協力によりできつつあります。パンのレシピを考える力は私たちにはまだありませんが、誰かと手を取り合うことは、世界が倍に広がることにつながっていくと思うのです。できないからやらない、あるいは1人でできるようにがんばるのではなく、今の力で多くの人と協力し合い、できる力を大きくしていきたいと思います。それはもちろん障害のある人もない人も。そして仕事を通してたくさんの仲間をつくり、ネットワークを広げていきたいと思います。 多くの人の協力でできあがる甲斐小麦のパン、フルーツ王国山梨の果物も練りこんで、自信をもってみなさまにお届けできるのは、夏頃からの予定です。ぜひお集しみに!! |
![]() 「緑の風」のオーブンは溶岩窯を導入 ![]() 製パン機材はクレーンで吊って搬入 ![]() すっかり雪に埋もれた小麦畑 ![]() 雪の下でじっと春を待つ小麦 |