連載の題名:甲斐の国から小麦の風 −わたしたちの小麦粉闘記④− 第3回目の題名:オープンに向かってまずは一歩 |
リポーター |
知的障害者施設 緑の風 設立準備担当/ 栗原えつこ |
八ヶ岳の南麓は春から夏へと季節が移り変わり、人も花も虫もにわかに活気づいてきました。山梨県長坂町一帯で作られている小麦は、青々と実っていたものが陽気の良さと入れ替わっていくように穂の先から黄金色に色づき、点在する麦畑だけが季節を取り違えたかのように豊かな実りとなっています。 私たちが創ろうとしている福祉施設「緑の風」は、来年の4月オープンに向けて建設が始まりました。「緑の風」は、知的に障害を持った人たち20人と職員約10人、併せて30人ほどが昼間働くための場所で、福祉施設の中では最も小規模なものですが、30人もの人が働く仕事場と考えると、見渡す限りの農村地帯の中ではかなりの建物となるのではないかと思います。建物は木造1階建で、100坪ほどの大きさです。福祉施設であっても周りの地域や人々に対して開放的で、暖かみがあって、それでいて「働く場所」でありたい、そんな様々な想いが具体的に実現されるような建物となるよう、私たちは願っています。 知的に障害を持った人たちが働く「緑の風」では、彼らは平日、朝から夕方まで毎日働くことになります。職場はもちろん仕事をする場所なので仕事のしやすさが重視されるべき場所です。でも、1日のほとんどを「緑の風」で過すことを考えると、仕事のしやすさに加えて居心地のよさを同じくらい重視したいと考えています。毎日楽しく、しかも一生懸命に働ける場所を目指しています。 施設の建設は始まりましたが、ハードだけではなく同時にソフトの準備も具体的に始まってきています。 私たちはパン用小麦の「甲斐小麦」を生産し、石臼で粉に挽いてパン屋さんへ届ける作業を仕事の一つにする予定です。甲斐小麦の生産は横浜のパン屋さんの集まりである「ホイートライフクラブ」が、「緑の風」と同じ山梨県の長坂町・大泉村の農家の方と生産の委託契約をしているもので、「緑の風」もその仲間に入れてもらっています。 私たちスタッフは、櫛沢電機製作所の澤畠さんと一緒に石臼の試運転を行いました。まだ小麦のとれる時期ではなかったので、そばの実を使いました。石臼は石の硬度が高く品質のよい小麦が挽けるというオストローラ社製の石臼の小さいものを試用に購入しました。こういうものだったら石臼のかみ合わせはこれくらいで回転はこれくらい、といった細かいマニュアルがないので、かみ合わせや回転を少しずつ変えながら、そば粉の挽き具合を確かめていきました。これから半年かけて澤畠さんやホイートライフクラブの皆さんの力を借りながら、甲斐小麦が最も品質がよく風味豊かな小麦粉となるような挽き具合を探っていきます。 甲斐小麦は長坂町のあたりでは10月中下旬に種をまき、翌年の梅雨明けの7月頃に収穫します。「緑の風」の小麦畑は、今年の秋に栽培をスタートさせます。しかし借りた畑は長い間放置されていたので、春から夏にかけて雑草がはびこっていました。地元の農家の方に相談したところ、小麦の前にそばをまくとよいということでした。長坂町のあたりはそばは秋まきで、8月にまいたものを10月に収穫できるとのことです。早速私たちは準備にとりかかりました。6月の始めにトラクターで雑草畑を耕し、雑草は緑肥として土の中にすき込みました。生きた植物をすき込むと、それが土の中で分解する過程で植物の生長によくない物質が生成されるそうで、耕してから1ヶ月くらいは土を落着かせるためにねかせておかなければならないそうです。耕して土をねかせることを2〜3回繰り返してようやく畑となります。甲斐小麦の種をまくまでにはまだいくつもの手順がありますが、畑を耕してようやく実現の道への一歩を踏み出したという実感が出ました。 |
![]() 小麦畑の耕うん。 ![]() 耕うんでからまったライ麦の茎を取り除く ![]() 養護学校の実習生と一緒に園芸作業 ![]() そばを使って石臼の試運転 |
「緑の風」では小麦と並んでもうひとつ大切な準備が始まりました。「緑の風」は知的障害を持った人たちが働くための場所なので、彼らが力を発揮して生き生きと働くことができるように、私たちスタッフの彼らへのサポートの力量も上げなければなりません。まだ建物もないのですが、隣接する農業生産法人㈲緑風舎の協力を得て、5〜6月に養護学校の実習を受け入れました。養護学校の実習は、彼らがこれから社会へ出て行くための準備の一つで、様々な企業や福祉施設へ2週間ほど出向いて実際の仕事などを体験するものです。この実習は彼らにとっても今後の進路を決める上で大事なものですが、同時に私たち「緑の風」のスタッフにとっても、仕事をどう組み立てるか、やり方をどう伝えていくかということを実際に経験するための実習となりました。作業としてきちんと伝えたい部分と個人のやり方を尊重する部分/福祉施設の職員として接する部分と仕事をする仲間として接する部分/一般企業へ就職する場合にはどんなサポートが必要か・・・様々な思いの中で揺れ動きながら試行錯誤を繰り返しました。 オープンまで半年となり、想い描いていたものが一つ一つ具体的になってきています。まずは自分たちのできるところから一歩ずつ・・・。 〒408-0032 山梨県北巨摩郡長坂町大井ヶ森994-1 Tel 0551-20-4400 m-kaze@ams.odn.ne.jp |