連載の題名:甲斐の国から小麦の風 −わたしたちの小麦粉闘記⑥− 第6回目の題名:施設南面に手づくりの庭 |
リポーター |
社会福祉法人 緑の風 設立準備担当/ 栗原えつこ |
知的障害を持った方たちが働く福祉施設「緑の風」は、夏前から始まった建設工事が順調に進み、基礎工事まで終わりました。これから、柱が立ち、屋根がかぶさり、壁ができ、日ごとに完成へと向かって新しい姿を見せてくれることになりそうです。 「緑の風」は、山梨県の八ヶ岳南麓という立地を活かして農園芸を軸に仕事を展開していきます。その一環としてパン用小麦「甲斐小麦」を生産し、その延長線上にパンづくりがありますが、今回は農園芸の別の側面をお伝えしようと思います。 「緑の風」では、花の生産を大きな軸の一つとして行なっていきます。私たちを花の生産の面からバックアップして下さっている農業生産法人「緑風舎」から、ハーブ類の大株の生産をしないかという話がありました。ハーブ類の苗は、小さな株は比較的市場にでまわっていますが、大きな株は需要がある割には供給が不足しているようで、確実に販売につながるだろうという話でした。知的障害を持った方たちが育てたハーブの大株の苗が、造園会社の庭園工事に使われ、そこの庭園で多くの人が楽しい時を過ごす、そんな流れが私たちスタッフの中で大きく膨らんできました。ともすると、知的障害を持った方たちは世間の経済活動の流れの中から外れてしまうことが多くあります。障害を持つ人も持たない 人も同じ一市民として地域の中で暮らしていこうという現在の福祉業界の共通理念が、市場経済の中でも実践されるのではないかという大きな期待を抱いています。 ハーブ類の大株は、施設南面の畑地部分で生産することになりました。施設周辺は北から南に向かって穏やかな斜面となっており、施設南面から見る景色は前面に富士山、右手に南アルプスととても景観に恵まれています。そのため、施設の南面にはその景色を楽しめるようにとデッキをつくり、オープンテラスのような雰囲気となります。大株を生産する畑地は施設の敷地よりも1㍍ほど低い段々畑のようになっているので、デッキから見下ろす場所に位置しています。 つまり、大株を生産する畑地は「人から見られる場所」であるとともに、知的障害を持った人たちが働く場所でもあります。彼らが働く姿も景色となるように、働く姿が素敵だなと見る人が感じるようにしたいと考え、畑地は庭園風に整備しようと計画しました。 庭園のデザインは、私たちのスタッフの一人であるランドスケープの専門家と話し合いを重ね、幾何学式庭園にしました。周りにないものを求めるという人間の欲求をふまえて、自然風景の豊かな土地では幾何学式の庭園が映えるのではないかという目論見と、直線で構成された区画、規則正しい配列は瞬昧な空間が少なく、知的障害を持った人たちでも管理しやすいのではないかと考えたからです。自分で作業の範囲を見極め、作業の手順を考え、一人で作業を進めるのに、幾何学な配置は助けになるだろうと予測しています。また、幾何学式であれば生産計画が立てやすく、彼らとともに計画を立てることもできるのではないか、という期待があります。 9月中旬から、いよいよ庭園の整備が始まりです。まずは畑地に生い茂った雑草を引き抜き、地面を平らにすることから始まりました。ちょうど養護学校の実習生を受け入れる期間と重なったので、日々進んでいく施設の建設工事を見ながら彼らと一緒に働いています。庭園の通路は、維持管理が楽なことと、庭園の花壇に植わった大株を手入れする時に通路に長時間座っても疲れないようにと、西洋芝を敷くことにしました。きれいに生えそろってくれるといいなと期待しながら、芽が出てくるのを実習生と一緒に心待ちにしています。一緒に仕事をしながら、「緑の風」の完成予想図が伝わったのか、私たちのわくわく楽しんでいる心が伝わったのかはわかりませんが、実習生の一人が養護学校を卒業したら「緑 の風」で働きたいと言い始めました。みんなでお茶を飲み休憩しているときに、彼女が「なんかさあ、ここに来たいi来たい!って心がうるさいんだよねえ」と胸を押さえて言うのです。私たちと共に働くことを選んでくれた彼女に、こちらも胸がきゅんとなりました。 「緑の風」で働く入たちが、毎日楽しく、そして未来を見つめながら仕事ができるように、私たちは環境やシステムづくりを進めています。 |
![]() 畑地を平らにするのを手伝ってくれた建築工事担当の人 ![]() 基礎工事まで終わった建物 ![]() 施設前の畑の測量 ![]() 実習生と一緒に畑地に芝の種を播く |